過疎化や高齢化にともない、作付けされないまま放置される【耕作放棄地】の増加が深刻な社会問題となっています。
農作物の栽培を辞めて長期間経過すると、土地の地質が変わり農業事業地として復元することが困難です。
このような状態になると、【荒廃農地】と呼ばれ、活用が困難になってしまうケースがあります。
そこで今回は、農地売買の許可、登記、手続きについて解説いたします。
農地売買とは?
農地売買とは、農業用地を売却することですが、日本では、農業を守るために農地を売買することを法律によって制限しています。
そのため、決められたルールや要件を満たさなければ取引ができません。
農地を適切に売却するにはどうしたらいいのでしょうか。
農地売買は2種類
農地は日本の食料自給のために欠かせないものであり、簡単に売却できてしまうと食糧自給率に影響が出る恐れがあります。
そのため、農地法という法律によってルールを決め、保護されています。
では、実際に農地を売却するための2種類の方法、確認していきましょう。
【1】農地をそのまま売る
土地は、用途によって【地目】という区分で分類されています。
地目を農地のままで売却する場合は、売却後もその土地が農地として使われる必要があります。
売却する相手は農業法人や個人農家などの農業者でなければなりません。
【2】農地を転用して売る
地目を農地から宅地など、農地以外の利用目的で転用して売却する場合は、売る相手に条件はありません。
ただし、転用するためには【立地基準】と【一般基準】の2つの条件を満たす必要があります。
価格相場
農地といっても、地域や立地、田か畑かなどによって売却価格はさまざまです。
【平成27年田畑売買価格等に関する調査結果(全国農業会議所)】
■全国平均価格
- 都市的農業地域
中田で3,589千円/a
中畑は3,467千円/a
- 純農業地域
中田で1,270千円/a
中畑は924千円/a
【都市的農業地域】は都市部とその周辺にある農地、【純農業地域】は農村部のことを指します。
都市部と農村部で価格差はありますが、近年は米価などの低迷や農地の買い手不足が進んでいるため、農地としての価格は長きにわたり下落傾向にあります。
用意するもの
土地売却契約の際に必要な書類を解説していきましょう。
必要書類には、売り手に関するもの、権利に関するもの、不動産に関するものなど、いろいろな種類があります。
売り手に関する書類
身分証明書、印鑑証明書、実印、銀行口座書類、住民票が必要です。
実印は認印を使うことができません。
不動産を共有し所持している場合、共有者全員の実印が必要になります。
共有者が遠方にいる場合などは、用意に時間がかかることもあるので注意が必要です。
権利に関する書類
登記済権利証または登記識別情報が必要です。
「権利書」と呼ばれるもので、登記名義人が売却する不動産の所有者であることを証明する非常に重要な書類です。
不動産を売却する際に、登記済権利証の所有権を移転します。
不動産に関する書類
固定資産税納付書、土地測量図面・境界確認書などが必要です。
建物がある場合は、建築確認通知書・工事記録書、建築設計図、耐震診断報告書・アスベスト使用調査報告書、管理規約書なども必要になってきます。
農地売買の流れ
では、実際の農地売買はどのような手順で行われるのか、手続きの流れについてみていきましょう。
許可
農地を耕作目的で売買する場合や賃貸する場合、権利の移転や設定を行う場合には、許可事務を管轄する農業委員会事務局に書類を提出し、許可書の交付を受ける必要があります。
申請者からの申請書を受理した農業委員会は、農地法3条2項に基づき審査を行い、必要があれば実地調査を行って許可又は不許可の判断をします。
農地転用を行う場合も、農業委員会への転用許可申請が必要です。
すべての条件を満たすと判断された場合のみ、農地転用許可が下ります。
登記
農業委員会から許可が下りた場合、【許可指令書】が発行されます。
この許可指令書に基づき、所有権移転登記を行います。
この登記については通常の不動産登記と同様です。
また、農地転用を行う場合は、農地転用事実確認願を管轄の農業委員会に提出し、証明書を交付してもらいます。
この証明書を法務局に提出し、地目変更登記を行います。
手続き
所有権移転登記が完了すれば手続きは完了です。
農地転用を行う場合には、時間を要する場合が多いため、スケジュールに注意しましょう。
農地転用の手続きには、目安として6週間程度かかります。
農振除外など、複雑な手続きが必要なケースでは、1年ほどかかることもあるため、あらかじめ農業委員会窓口で状況を調べたうえで、手続きを進めていきましょう。
農地売買の注意点
農地売買にはいくつか注意点があります。
2つの条件を満たす
農地売買のために農地転用を行う場合、2つの許可基準を満たす必要があります。
それは【立地基準】と【一般基準】です。
【立地基準】
農地の区分によるもので、転用できる可能性があるのは原則として第2種農地と第3種農地に分類される農地のみとなります。
保有している農地がどの農地に分類されるのか、まずは管轄する自治体に確認をしましょう。
それ以外の農地も許可が100%下りないわけではありませんが、複雑な条件と手続きが必要になることは間違いありません。
【一般基準】
これは転用後の利用用途に関する条件です。
転用後もその土地をきちんと利用できるかどうかを判断する基準で、次のような条件があります。
- 転用行為の妨げとなる権利を有する者の同意があること
- 行政庁の許認可等の処分の見込みがあること
- 資力及び信用があると認められること
- 遅滞なく転用目的に供すると認められること
- 周辺農地に係る営農条件に支障を生ずるおそれのないこと
- 農地転用面積が転用目的からみて適正と認められること
- 土砂の流出、崩落等災害を発生させるおそれのないこと
- 農業用用排水施設の有する機能に支障を生ずるおそれのないこと
2022年問題
1992年に【生産緑地法】が施行され、【生産緑地】という土地が誕生しました。
生産緑地は、都市計画に基づいて、都市環境の保全などのために農地または緑地等として残すべき土地を自治体が指定したものです。
この【生産緑地法】が施行されてから30年が経過する2022年に、制度の期限となって生産緑地指定が解除される土地が出てきます。
行政が買い取りをしなかった場合、大量の土地が一般に売却される可能性があり、土地の需給バランスが崩れ、地価が大幅に下がるのではないかと懸念されています。
これが、「生産緑地の2022年問題」です。
影響範囲は、都市部、郊外、または経営面積によって変わってくるといわれており、一概にはいえませんが、土地を売却するにあたって考慮すべき問題のうちのひとつとされています。
農地の売買価格は年々下落
農業の先行き不安や賃借の増加などによる農地の買い手の減少や買い控えにより、農地の売買価格は年々下落を続けています。
農業継承者がいない農家で、相続が行われる場合に必ずといっていいほど問題となるのが農地の売却です。
農地は固定資産税は低く設定されており、農業を継続すれば相続税や贈与税が免除される優遇措置もありますので、農地の売却や地目を変更する際には諸条件を確認しましょう。
また、農業経営基盤強化促進法では、意欲ある農業者に対する農用地の利用集積、これらの農業者の経営管理の合理化等の措置として、農地中間管理機構の事業の特例事業【地権者から農地を買入れ、農家への売渡しを行う事業】が実施されます。
このように農用地利用集積計画も定められていますので、検討しても良いでしょう。
- 農地を売買するには、農地のまま売却するか、地目を変更して売却するかの2種類がある
- 農地売買の際には、さまざまな書類が必要となる
- 農地売買の流れは、許可、登記、手続き
- 農地売買には、条件のクリアが必要
- 2022年問題を考慮して検討しよう
- 農地の売買価格は年々下落しているが、売る以外にも活路はある