「確定拠出年金」と「個人年金」の違いといえば、運用責任があるかないかです。
ただし、共通する部分もあれば、それ以外にも様々な違いがあります。
退職後の将来のことを考えて契約を悩んでいる人は、共通点や違いから自分に合った年金かを判断して選ぶのが賢明です。
確定拠出年金と個人年金の共通点
この項では、「確定拠出年金」と「個人年金」の共通点について見ていきましょう。
所得税・住民税の控除枠がある
確定拠出年金と個人年金の共通点のひとつは、生命保険料控除と同様に所得税や住民税の控除枠があることです。
控除とは、1年間の支払った保険料の金額に応じて所得税・住民税が抑えられる制度となっており、節税対策として有効となります。
まず確定拠出年金の控除枠についてですが、個人型であれば掛け金の全額が控除の対象となっているので上限はありません。
企業型については会社負担分が含まれないので注意しましょう。
そして、個人年金についても確定拠出年金と同様に控除枠が設けられていますが、上限がありますので、それぞれ具体的にお伝えします。
まず所得税に関しては、
- 年間の保険証支払額が2万円以下…全額が控除の対象
- 年間の保険証支払額が2万円以上4万円以下…支払保険料×1/21万円
- 年間の保険証支払額が4万円以上8万円以下…支払保険料×1/42万円
- 年間の保険証支払額が8万円以上…一律4万円
次に住民税に関しては、
- 年間の保険証支払額が1万2千円以下…全額が控除の対象
- 年間の保険証支払額が1万2千円以上3万2千円以下…支払保険料×1/26千円
- 年間の保険証支払額が3万2千円以上5万6千円以下…支払保険料×1/41万4千円
- 年間の保険証支払額が5万6千円以上…一律2万8千円
となっていますが、平成23年度12月31日以前に契約をしている場合には、計算方法に若干の違いがあるので、契約時の日にちがわかるものを持参して自治体に確認してみましょう。
運用期間中は課税対象外
確定拠出年金と個人年金は、運用期間中には課税対象外となっています。
確定拠出年金は、運用によって得た利息や配当金・売却益などはすべて非課税となっており、得たリターン分は再投資に回すことが可能です。
たとえば定期預金で利息が出た場合は、その利息分から税金を納めなければいけませんが、確定拠出年金で定額預金をしていたのであれば、税金を納めることなくそのまま年金資産の残高として反映されることになります。
つまり、複利効果を発揮すればするほど年金資産を増やしていくことが可能で、受け取れる年金の額が増えることとなります。
個人年金に関しても、年金の受け取りの時や解約をするまでは課税が繰り延べられることになるので、資金は課税の対象にはなりません。
それぞれの加入者数の推移
厚生労働省が示している「確定拠出年金の加入者数(個人型)」の推移を平成23年度から見ていくと、右肩上がりで加入者数が増えていることがわかります。
- 平成23年度…加入者数12.5万人(前年度比1.3万人増)
- 平成24年度…加入者数13.9万人(前年度比1.4万人増)
- 平成25年度…加入者数15.8万人(前年度比2.0万人増)
- 平成26年度…加入者数18.4万人(前年度比2.5万人増)
- 平成27年度…加入者数21.3万人(前年度比2.9万人増)
次に生命保険協会の調査による「個人年金の加入者数(保有契約)の推移」を、同じく平成23年度から見ていきます。
- 平成23年度…加入者数1.975万件
- 平成24年度…加入者数2.042万件
- 平成25年度…加入者数2.047万件
- 平成26年度…加入者数2.050万件
- 平成27年度…加入者数2.075万件
個人年金に関しても、確定拠出年金に比べると伸び率は少ないのですが、年々増加しており平成18年度から今まで過去最高の保有件数を記録していることが発表されています。
確定拠出年金と個人年金両方の加入者数の推移が増加していることから、「退職後に年金がもらえるのか」「老後の生活に問題がないか」など、将来への不安を抱えている人が多いことが考えられます。
大きな違いは運用責任
確定拠出年金は、自分で運用していくシステムです。
未経験者は難しいと考えがちですが、コツを掴めば誰にでも安心して運用することができます。
また、元本が確保されている定期預金や保険商品もあります。
定期預金は金利が低いため利益を出すことは難しいかもしれませんが、資金を減らしたくないと考えている人には向いているといえます。
保険商品も定期預金と同様に元本が確保されています。
ただし、途中解約をすることで元本割れをする可能性もあるので注意しましょう。
また、リスク型の投資信託からも組み合わせることが可能です。
投資に関するプロが運用をしてくれるので、比較的安全に運用ができますが、リスクのある商品なので元本割れをすることを頭に入れながら運用することが大切です。
リスクを減らしたいのであれば、分散投資を行いましょう。
複利効果として運用期間が長いほど利益が上がることが予想されますし、受け取れる年金も増えることになります。
年金を受け取るまでの期間が長いほど、リスクのある運用を行ったとしても、リスク軽減のコントロールができるようになります。
個人年金は、月額や年払いで保険料を支払って将来的に受け取る仕組みとなっています。
たとえば20歳で個人年金を契約し、月々一定額を払い込むことで保険料を積み立て、契約時に設定した60歳や65歳などの年齢時に公的年金と合わせて年金を受け取れることになります。
確定拠出年金との相違点は3つあります。
- 保険料が一般勘定で運用されていくので「運用責任は保険会社が持つ」
- 確定拠出年金と違い「受け取れる金額が決まっている」
- 個人年金は保険会社が運用するため「大きなリスクがない」
この3点を見る限り、リスクを負いたくないという方には、個人年金が合っているかもしれません。
段階別でわかる条件の違い
確定拠出年金・個人年金には、「積立時」「運用時」「受取時」という3段階があります。
ここでの違いを詳しく見ていきましょう。
積立時
■確定拠出年金
- 積立額…原則変更可能となっていますが、会社によって条件があるので変更する場 合には確認してみましょう。
- 税制…全額控除
■個人年金
- 積立額…変更することはできますが、変更できる種類や型などが決められていて、 変更できない場合もあります。詳細は生命保険会社に確認してみてください。
- 税制…限度額が設定されています。
運用時
■確定拠出年金
- 中途解約…原則不可となっているので注意が必要です。途中脱退はできますが、年 金資産は返してもらえないことがあります。
- 運用責任…本人になるため、運用方法を自分で変更することができるほか、物価が 変動しても対応することが可能です。
- コスト…運用時にコストがかかるので、少しでも抑えたいという場合には手数料が 安いものを選ぶようにしましょう。
- 保険者が死亡してしまった場合…保険者死亡の場合、積み立ててきた金額は遺族が 受給することになります。
■個人年金
- 中途解約…可能となっていますが、受取額が減る可能性があります。(元本割れの可能性あり)
- 運用責任…保険会社となっています。運用利率は固定され、物価が変動しても対応 することはできません。
- 保険者が死亡してしまった場合…既払込保険料相当額を死亡保険金(死亡給付金) として受け取ることができます。
受取時
■確定拠出年金
- 受取額…運用次第で受け取れる額に違いがでます。
- 税制…一時金は退職取得控除、年金は雑所得として公的年金控除
■個人年金
- 受取額…契約時に決定した金額を受け取ることになります。
- 税制…一時金は一時所得、年金は雑所得として公的年金控除
どのように使い分けるべきか
確定拠出年金と個人年金の違いを確認してみると、受け取る年金額や運用時に大きな違いがあることがわかります。
個人年金は受け取れる年金の金額が予めわかっていることから、将来設計がしやすいことがメリットとしてあげられるでしょう。
反対に確定拠出年金については年金額が決まっていません。
自分で運用していくことで、受け取れる金額が変わり将来に備える資金を増やせることもできますが、リスクも存在します。
リスクを極力抑えて今ある資金を守っていきたいのであれば、個人年金を利用するのが賢明です。
しかし、税制面で見ると確定拠出年金の方がメリットは大きいため、税制面で考えた場合には、確定拠出年金を利用すると税金を抑えた運用ができます。
最後に
確定拠出年金・個人年金は、どちらも加入者数が年々増えており人気を集めていますが、それぞれに違いもあります。
運用責任があるのと無いのでは、大きな違いがあるので、将来のことを考えて契約を悩んでいるのであれば、自分のスタイルに合った方を選ぶと良いでしょう。
また、個人年金に関しては低解約返戻金型保険と比較されやすいのですが、途中解約をしてしまうと大きな損をしてしまうことになるので注意が必要です。
- 控除枠があるが、確定拠出年金は全額、個人年金は限度が設けられている
- どちらも運用期間中は非課税になる
- 確定拠出年金も個人年金も右肩上がりで加入者が増えている
- 確定拠出年金は自分が運用していくため受け取る年金額を変えることが可能
- 個人年金は受け取る年金額が決まっている