農村部の高齢化や人口減少に伴い、耕作放棄地が増えています。
日本の農地面積は、最大だった昭和36年から26%も減少して、現在450万ヘクタールとなっています。
一方、耕作放棄地は、ここ40年で約3.2倍に増えて42万3000ヘクタールに上りました。
農地が減少すれば、日本の食糧自給率はますます下がりますから、政府もその発生防止と解消に取り組んでいますが、耕作放棄地の再生に太陽光発電が一役買うことはご存知でしょうか。
耕作放棄地の利用のしくみと、太陽光発電との関係に関して、ご説明しましょう。
耕作放棄地とは?
まず耕作放棄地とは何を指し、どのような問題点があるかをみていきましょう。
耕作放棄地の定義と種類
耕作放棄地というのは、農林水産省が行う農林業センサスという統計上の用語で、定義としては
「もともと農地だったところで、農作物が1年以上栽培されておらず、かつその土地を所有する農家が数年の間に作付けする予定がないと申告している農地」
のことです。
つまり、農家の意思による自己申告にもとづいて把握されているものですから、定義は少し曖昧です。
また、農林水産省では耕作放棄地を、再生利用が可能なもの(A分類)と、再生利用が困難と見込まれるもの(B分類)に分類していますが、再生利用が可能なA分類の中でも、すぐに耕作が可能となる農地と耕作するために、整備が必要なものも入ることになります。
遊休農地との異なる点
耕作放棄地と混合される、遊休農地。
遊休農地とは、農地法で規定されているもので、その定義は
「現在耕作されておらず、今後も耕作に使われない見込みの農地、又は周辺地域の農地の利用よりも利用程度が著しく劣っている農地」
となります。
耕作放棄地は統計上の用語、遊休農地は農地法上の用語で、意味や使い方としては殆ど同じですが、耕作放棄地は基本的に耕作が行われていないことを前提としているのに対し、遊休農地には耕作されていても周辺の農地よりも利用度が少ない土地も含まれます。
耕作放棄地の問題点とは
耕作放棄地には、以下の問題点があります。
- 周辺の農地への被害
雑草が繁茂し、農薬の影響を受けずに発生する病虫害の温床となって近隣の農地に被害を与える。
また農地の作物を荒らす鳥獣類が棲みついてしまう可能性がある。
- 環境問題
粗大ごみを含むゴミの不法投棄地となりやすい。
また景観も悪くなる。
- 災害を引き起こしやすくなる
農地には保水能力があり、降水量が増えても付近の河川の水位が急激に上がって洪水を起こすことを防ぐが、耕作が放棄されると、雨水が河川に流れ込んで洪水のリスクが高まる。
- 食糧自給問題
農地が減少して農産物の生産が減り、食糧自給率に影響が出る。
日本の食糧自給率は平成26年度はわずか39%と年々低くなっており、外的要因の影響が大きい輸入への依存が高まることで、食糧危機に陥るリスクが増える。
耕作放棄地の再生対策に「太陽光発電」
日本の農地法は農地(畑)の保護を重視したものとなっており、農地を農業以外に使うための転用に制限がかけられていますから、農地の転用は市街地に比較的近いところでしか基本的に認められてません。
従って、農地や耕作放棄地の全てを太陽光発電用地とするのは困難ですが、農業を継続しながら太陽光発電を行う方法が注目されています。
ソーラーシェアリングについて
ソーラーシェアリングとは、簡単に言うと太陽の光を作物とソーラーパネルでシェアする仕組みのことです。
ソーラーパネルを作物の上に、作物の生育に影響しない程度に設置して、耕作と発電を同時に行います。
植物は太陽光の全てを使って光合成しているわけではなく、植物の種類によっては光合成に必要な最低限の光量を示す光飽和点があります。
光飽和点を超えた日照量は、作物にとっては不要となるため、これを太陽光発電に利用するという考えです。
事例として、全国で貸し農園を経営するベンチャー企業のマイファーム社が、再生可能エネルギーのコンサルティング会社である千葉エコ・エネルギー社と合弁で、ソーラーシェアリングのコンサルティングサービスを提供するエコ・マイファーム社を設立しています。
またその他、静岡県函南町の丹那盆地のソーラーシェアリングを利用した薬用植物のオーガニック栽培などもあります。
太陽光は農地だけでなく、例えば湖沼の養殖場や、牧草地、ビルの屋上などでも、他の用途とシェアすることが可能ですから、ソーラーシェアリングは今後農地以外でも増えていくと思われます。
売電収入を得る方法
日本での太陽光発電は、固定買取価格制度の導入によって普及し始めたといって良いでしょう。
太陽光発電によって得た電力は、電線でつながっている限り、電力会社に売電することが出来ます。
売電契約時の買取価格が、10kw以上の場合は20年間固定されるのが、固定買取価格制度です。
価格は太陽光発電の設置費用にあわせて毎年見直され、年々低くなっているのが現状ですが、売電契約時点の価格で約10年で初期投資が回収できるように設定されていますから、回収後は安定して利益を得られることになります。
なお、耕作放棄地を太陽光発電として利用するのには、「転用型」と「営農型」と2つあります。
転用型の太陽光発電とは
農地を太陽発電用に転用して、地面にソーラーパネルを架台で設置するものです。
架台を地面に固定する為には、農地の地盤の整備が必要となります。
ただし転用に際しては、農地法に基づいて転用許可を申請して許可を得る必要があり、農地保護政策により転用が認められる農地は非常に限られています。
市街地化が進んでいる区域であれば、届出だけでも可となります。
営農型の太陽光発電とは
従来農林水産省は、農地にソーラーパネルを設置することは、転用にあたるとして認めていませんでした。
しかし、2013年に営農型の太陽光発電設備に関するガイドラインが発表されて、営農型による事業化が認められるようになりました。
農地としての耕作と太陽光発電を同時に行うもので、ソーラーシェアリングがこれにあたります。
ただし、あくまでも農業が「正」で、発電は「副」とする必要があり、一時転用するための許可を取得することが必要です。
転用よりも許可は取りやすいですが、転用期間は3年と限られ、その後3年毎に更新する必要があります。
また、耕作が主であることを確認する為、生産状況を毎年報告することも条件づけられます。
その他設置する支柱は、簡易な構造で簡単に撤去できることも条件とされています。
営農型の場合ソーラーパネルは、下の作物の生育を妨げない太陽光の透過性が高い特殊なパネルを、地面に架台で設置するのではなく、支柱を使って空中に設置します。
架台の設置ほど地盤の整備は必要としませんが、あくまで耕作の支障とならないことが条件となりますから、農業用機械がパネルの下で稼動できるだけの高さを確保することが必要となります。
転用型、営農型どちらの場合も、売電する為には電力会社の送電線につなげる必要があります。
耕作放棄地の再生に伴う補助金・交付金は?
農林水産省では農業振興と耕作放棄地再生支援のため、「耕作放棄地再生利用緊急対策交付金制度」を設けています。
耕作放棄地を耕作可能な状態とするため、mp作業にかかる再生経費の一部を平成30年まで、政府が補助金として交付する制度です。
地方自治体も個別に同じような趣旨の補助金を農業委員会事務局から交付しています。
支援対象は
- 荒廃した農地で農業を再開するための整地や堆肥投入などの基盤整備費用
- グリーンハウスや貯蔵施設などの農業用施設の整備費用
- 排水設備整備費用
となります。
土地の所有者に代わって、耕作放棄地を再生したり利用する取り組みを行う法人に対しても交付され、自治会などの団体で取り組んでいる事例もあります。
太陽光発電での農業参入も視野へ!
規制により転用が困難な為、ほったらかしになっている耕作放棄地が増えています。
こうした放棄地をソーラーシェアリングを使った「営農型」で利用することは、農業従事者の人たちを増やして農地を再生するという面でも効果的です。
また、エネルギー確保の面でも有用ですし、農家にとっても売電による安定した副収入が得られるというメリットもあります。
農地の転用は農地法で厳しく規制されていますが、耕作と一緒に行うことで再生のための補助金も得られ、農業による収入の他に売電による収入も生まれますから、こうした形での太陽光発電は今後も増えていくことが予想されます。
耕作放棄地の利用率を上げることは、農業改革でもあり国にとっても必要不可欠といえるでしょう。
- 日本では耕作放棄地が年々増えており、付近の農家への害や環境問題の引き金となっている
- 耕作放棄地の活用には、転用型と営農型とある
- 営農型で耕作と太陽光発電を同時に行うソーラーシェアリングは、農業に売電収入の付加価値をつける
- 営農型の許可は3年ごとに申請し、作物の生産状況を毎年報告する必要あり
- 耕作放棄地の再生には、政府の補助金が得られる