限られた国土を有効活用するため、農地転用に関する法律が決まっています。国土を合理的に活用できるように、政府が決めたルールです。
利用目的を地目と呼び、別の用途に使うためには農地転用手続きと地目変更登記が必要とされます。食糧供給の観点から、農地転用手続きはとくに厳しく規制されるのが通常です。合法的に転用するため、必要な手続きや費用について見ていきます。
農地転用って?
農地転用とは、農地として記録されている土地を他の用途にも使える状態にすることです。国内の食糧自給率が低いことは、しばしばニュースなどで取り上げられています。
このような食糧事情への配慮から、土地の地目変更をした場合、再び農地に戻す可能性は低いと判断されて、農地転用審査は厳しくなる傾向があります。したがって、農地転用を行う際にはしかるべき対応を求められています。
太陽光発電事業を行うには土地の地目を変更する必要がある
一般住宅にソーラーパネルをつけるのとは、やや事情が異なり、農地のままでは事業用の太陽光発電設備を設置できないため、空き地や遊休地などに変える手続きをとることが必要です。地目変更の手続きを行わずに事業を進めてしまったら、行政処分の対象とされます。工事中止命令や原状回復などの処分がでると、計画を中断しなくてはなりません。
懲役3年以下もしくは100万円の罰金など、刑事罰が科されるリスクもあります。また、太陽光発電のように大規模なプロジェクトを中断すると、大きな経済的損失を免れません。必要な手続きをあらかじめ確認して、リスクヘッジを徹底しましょう。
実際に行う手続き
農地転用・地目変更の一般的な手続きの流れを紹介します。手続きの流れや必要書類については、地域や状況によって異なってきます。実際に手続きを進める際には、地域の農業委員会事務局に確認しましょう。
農地転用と地目変更の手続き
農地転用の具体的な手続きは、対象とする土地の場所によって異なります。市街化区域にある農地の場合、農業委員会への届け出を行います。農業委員会や都道府県知事の許可がなくても、農地転用することができる例外です。市街化調整区域の農地なら、農業委員会を通して許可申請書を提出します。申請諸提出を受けた農業委員会が都道府県知事に意見書を添えて送付、農林水産大臣と可否を協議する流れです。
許可通知を受けたところで、地目変更を行います。地目は登記に関わるものなので、別途手続きが必要です。具体的な手続きとしては、農地転用事実確認願と地目変更登記を行います。
農地転用事実確認願
農地転用がたしかに終わっていることを確認してもらうための届け出です。農業委員会宛に提出して、現地確認を受けてください。転用の事実が認められると、証明書を出してくれます。この証明書は、地目変更登記の際に必要です。
地目変更登記
農地転用事実確認願で受け取った証明書を添えて、必要書類を提出します。登記に書かれている地目を変える手続きなので、提出先は法務局です。登記申請書に添付する書類関係は、対象とする土地の状況によって変わってきます。登記申請書の書き方を間違えると、申請は通りません。専門家のサポートを受けて、正しく手続きしてください。
農地転用に適用される法律
農地法の第4条と第5条が関係します。第4条は、自ら所有する農地を転用するケースで関わってくる法律です。転用を行う者を許可申請者として、原則的には都道府県知事が許可権者とされます。第5条は、事業者が転用目的で農地を買おうとする場合に関わります。売り主と買い主の双方が許可申請者とされて、都道府県知事宛に許可を求める決まりです。
農地転用の際に発生する費用
手続きを行政書士に依頼する場合、数万円~数十万円かかります。一定の費用はかかりますが、全ての書類を自分で整備するのは大変です。不備なく用意するには多大な労力と時間を要するため、専門家に一任すると安心でしょう。
転用前提の工事費用は、土地の状況や地方自治体の規則によって変わってきます。お住まいの地域の都市計画課や土木事務所に相談したうえ、見積もりを受けてください。
農地転用の手続きの流れ
必要な書類や手続きの流れをもう少し深堀して見ていきます。大まかな流れを知っておくと対応がスムーズなので、一通り目を通しておきましょう。
事前準備に必要な書類
農地転用許可申請を行うにあたっては、いろいろな添付書類が必要です。たとえば、転用しようとしている土地の登記事項証明書です。公的な証明書を用意する必要があるので、法務局で取得します。土地の公図も添付書類に入るため、登記事項証明書と一緒に用意しましょう。住宅地図の写し、建設を予定している建物の設計図なども、申請段階で必要とされます。太陽光発電事業を予定している場合、会社の資力や信用力を示す書類も欠かせません。
その他、個別に必要となる書類はたくさんあります。準備に時間を要する書面もあるため、必要なものを明らかにするところからスタートしましょう。
現況確認
取引の対象とされる土地が農地にあたるかどうかは、現況主義が適用されます。農業委員会に確認して、農地に該当するかを明らかにしましょう。登記簿上は農地になっていない土地に対して、農地法の管轄に入るケースはあります。
現在は農業に使われていない土地であっても、登記簿上が農地とされている場合も同様です。
農業委員会に相談する
農業振興地域内の農用地区域に該当する場合には、原則的に転用ができません。区域の詳細を農業委員会に相談して、必要な手続きを確認しましょう。その他の農地であっても、転用事業の内容やスケジュールが吟味されます。
事業の収益性や実現可能性を考慮して妥当でないと判断された場合、申請内容が通りません。具体的な作業を始める前に農業委員会事務所とよく相談して、アドバイスを受けると安心です。
必要書類が揃ったら
必要書類が全てそろったところで、しかるべき相手に提出しましょう。4ha以下の土地の場合は、農業委員会を通して都道府県知事に申請されます。
4haを超える土地だと、都道府県知事に申請して農林水産大臣の判断をあおぐ流れです。農業委員会に相談した際、書類の提出先を一緒に聞いておきましょう。
農地転用手続きが完了するまでの期間
許可権者が都道府県知事の場合で6週間~9週間かかるのが通常です。農林水産大臣の場合は、12週間程度を目安とします。書類の準備から考えると、半年~1年くらいを覚悟しましょう。
事業的規模での転用を考える場合、まとまった資金の準備も必要でしょう。余裕を持ったスケジュールを確保して、資金繰りに苦しむことがないように調整します。
農地転用で太陽光発電事業を行うメリット
農地転用で太陽光発電事業を行うと、大きく3つのメリットが考えられます。
農地を安く購入し投資する魅力
放置されている農地を安く購入・エネルギー事業に活用できれば、大きな利益をあげるチャンスがあります。利回りで考えても、ビジネスチャンスが大きな市場と言えるでしょう。クリーンエネルギーへの需要は、今後も継続するものと考えられます。市況に左右されにくく、安定した収益が期待されるビジネスです。
発電量の高さが期待できる
もともと農地として活用されていた場所は、日照条件がそろっています。太陽光発電事業を営むにあたって、理想的な環境と言えるでしょう。一定規模以上の広さの土地を確保できれば、収益性を高めるチャンスもあります。
審査の軽減措置を認める市町村も
政府の後押しを受けて、太陽光発電事業に対する軽減措置を定める地方都市も中にはあります。農地転用の手続きが比較的スムーズに進みやすく、有効な土地活用手段です。
農業との両立
農業を継続しながら太陽光発電事業を行うソーラーシェアリング技術が広まっています。限られた土地を有効活用して、収益源を広げるチャンスです。発展途上のテクノロジーではありますが、今後の動向が注目されます。
農地転用で太陽光発電事業を行うデメリット
農地転用で太陽光発電事業を行う場合、3つのデメリットが起こりえます。事業をはじめる前に知っておきたいリスクについての詳細を見ておきましょう。
設置費用が高額
まとまった初期投資が必要な投資なので、綿密な計画が必要です。銀行の融資を受けるなど、具体的な投資計画が求められます。準備にもある程度の時間がかかるため、キャッシュフローを安定させる施策を投じなければリスクが生じるでしょう。
農作物の収穫が下がる
ソーラーシェアリングを行ったとしても、農作物の収穫が減るリスクはあります。土地と太陽光資源をどのように活用したら収益性があがるのかシミュレーションしてみましょう。栽培している農作物の種類が限定されることも、専業農家にとってのリスクと言えます。
農作物の生産状況を報告する必要がある
太陽光発電事業が周辺農家に悪影響を与えていないかを報告する義務があります。定期的に公的な調査が入るため、準備に要する労力も問題です。本業にあてる時間がとれないと、収益性に影響がでます。
農地転用は計画的に
農地転用、地目変更は、一定の費用がかかる問題です。将来的な事業への影響まで考慮して、計画的に判断しましょう。収益性や費用については、専門事業者に相談すると安心です。
太陽光発電投資を得意とする業者に連絡したうえで、具体的なシミュレーションへと落とし込みます。農地転用目的で土地を購入する際には、より慎重な判断が必要です。何となく儲かりそう、などイメージだけの見切り発車には、くれぐれも注意しましょう。
・農地転用と地目変更手続きには時間と労力を要するため、収益性の見極めが重要。
・農地転用の手続きは専門知識が必要なので、信頼できる業者に相談する。