日本国内においては石油や石炭など、従来使用されてきたエネルギー資源は限られており、また、世界規模で見ても、石油はあと数十年のうちに尽き果ててしまうだろうと言われています。
このような時代背景の中で、エネルギーを確保するための新しい手段が近年注目を集めています。
その中の一つが「太陽光発電」です。
太陽光発電には、長い目で見た時にエネルギーを安定して確保できる、二酸化炭素の排出が少なく環境への負荷が小さい、などといったメリットもあります。
ここでは、各家庭などでも比較的手軽に導入可能なこの太陽光発電の仕組みや発電量、導入にかかるコストや電力会社への売電収入の概算などについてまとめました。
太陽からのエネルギー
太陽からは、可視光線だけでなく赤外線や紫外線などの電磁波として放射されたエネルギーが地球に届いています。
この地球に届く全てのエネルギーを太陽放射といいます。
「kW(キロワット)」と「kWh(キロワットアワー)」について
エネルギーについて考える際にはよく、「kW」や「kWh」という単位が登場します。
ここではこれらの単位が何を表すのかを簡単に説明します。
まず、「kW」と「kWh」どちらにも共通しているk(キロ)についてですが、”キロ=1000倍”だと考えましょう。
※1kg=1000gや1km=1000mなどと同様です。
■kW(キロワット)について
1kW=1000Wです。
W(ワット)はよく「電力」などと呼ばれます。
W(ワット)=1秒間に消費(あるいは供給)されるエネルギーの量 |
エネルギーを表す単位[J](ジュール)を用いると、[J/s]ということになります。
■kWh(キロワットアワー)について
1kWh=1000Whとなります。
Wh(ワットアワー)は、よく「電力量」などと呼ばれます。
Wh(ワットアワー)=1時間に消費(あるいは供給)されるエネルギーの量 |
です。
こちらはエネルギーを表す単位[J]を用いると、[J]になります。
少し例を見てみましょう。
【電子レンジを使う場合】
加熱調理に使う電力は約500W。
つまり、加熱調理を行っている間は1秒間に500[J]のエネルギーを消費していることになります。
では、この500Wで3分間調理した場合の消費電力はいくらになるでしょうか。
計算式は以下です。
500W×3/60時間=25Wh(0.025kWh) |
太陽光発電の仕組み
太陽光発電の仕組みを紹介するために、まずは太陽光発電システムの主な構成要素について紹介します。
- 太陽電池モジュール
- 接続箱
- パワーコンディショナー
こちらが主な構成要素です。
他にも構成要素はありますが、本質的に重要ではありません。
では、主要の構成要素を1つずつ見ていきましょう。
太陽電池モジュール
これはいわゆる「ソーラーパネル」と言われた時に、みなさんが想像するものでしょう。屋根に取り付けられている蓄電池です。
ソーラーパネルは、多数の太陽電池をつなげたものです。
一番小さい単位を、「セル」(おおよそ手のひらサイズ)、セルを板状につなげたものを「モジュール」(おおよそ人一人分くらいのサイズ)と呼びます。
このモジュールをつなげた大規模なソーラーパネルを「アレイ」と呼びます。
太陽電池は、光電効果という現象(金属に光が当たると、金属から電子が飛び出す現象)を利用しています。
(※ちなみに、アインシュタインのノーベル物理学賞受賞の理由はこの光電効果の研究によるものです。)
太陽から降り注いだ光が、太陽電池を構成する半導体に当たることによって、電子がエネルギーを得るという仕組みです。
同じ光が当たった時に、どれだけの電子がエネルギーを得るかは半導体の物質によって異なります。
太陽電池には、大きく分けてシリコン系、化合物系、有機系の3種類があり、発電効率が異なります。現在の主流はシリコン系です。
パワーコンディショナー
太陽電池モジュールで生み出された電気は、乾電池などで生み出される電気と同様の「直流」と呼ばれるものであり、そのままでは「交流」の電気を使う家庭では用いることはできません。
そのために、直流から交流への変換を行うのがこのパワーコンディショナーです。
接続箱
太陽電池モジュールをつないでいる回線を一つにまとめ、直流の電気をパワーコンディショナーに送るための装置。
太陽光発電の発電量とその計算方法
太陽光発電の発電量は、おおよそ1kWあたり年間で1000kWh。
一般家庭で使用される太陽電池モジュールの出力は、平均で5kWなので、年間の発電量はおおよそ6000kWh程度となります。
ここでは、この発電量の詳しい計算方法を説明します。
年間の発電量は以下の計算式によって予測されます。
年間予測発電量(kWh)= | 斜面日射量(kWh/m2∙day)×日数(day)×出力(kW)標準日射強度(kW/m2) |
|
|
標準日射強度(kW/m2) |
×(1-温度上昇損失率)×(1-パワコン損失率)×(1-その他損失率) |
では、この計算式を細かく説明しましょう。
■斜面日射量
太陽電池モジュール設置面1m2あたりに1日に降り注ぐ太陽光エネルギーの年間平均(東京都23区では年間平均で約4kWh/m2/day)
■日数
1年分の予測発電量を計算したいので、365日
■標準日射強度
1kW/m2(JISの規格)
■出力
放射強度1kW/m2(標準日射強度)、モジュール温度25℃で測定した時の発電能力(1秒間にどれだけのエネルギーを生み出せるか)、家庭用太陽電池モジュールの平均は約5kW
■温度上昇損失率
モジュールの温度が上昇すると、発電効率が下がる。この影響が何パーセント程度かを表すもの。相場は5-15%
■パワコン損失率
パワーコンディショナーで電気を直流から交流に変換する際にエネルギーの損失が生まれる。この影響が何パーセント程度かを表すもの。相場は2-7%
■その他損失率
太陽光電池モジュールの汚れ、回路でのロスなどによるエネルギーの損失率
斜面日射量は地域や設置場所、方位、傾斜角度などの設置条件によって変化しますし、温度上昇損失率やパワコン損失率はメーカーの違いなどでも変わってきます。
斜面日射量については、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のホームページで月別、季節別の変化などについて調べることができます。また、温度上昇損失率やパワコン損失率などのデータもメーカー別にホームページで調べることができます。
家庭用太陽光発電システムの年間発電量
ここでは、平均的な値を用いて家庭用太陽光発電システムでの年間発電量を計算してみたいと思います。具体的に使用する値は以下の通りです。
【例】
斜面日射量:4(kWh/m2/day)
日数:365(day)
出力:5(kW)
標準日射強度:1(kW/m2)
温度上昇による損失率:10%
パワコンによる損失率:5%
その他損失率:5%
【計算式】
4(kWh/m2/day)×365×5×(1-0.1)×(1-0.05)×(1-0.05)÷1(kW/m2)=5929kWh
となります。
これはあくまで、標準的な状況での計算例であり、実際の発電量は環境や地域などによって変わります。
シャープや京セラ、パナソニックなどのHPで発電量のシミュレーションを行うことができます。
太陽光発電システム導入による利益率(売電収入)のシミュレーション
さきほど太陽光発電による年間発電量の概算をしましたが、家庭で年間に使用する電力量はどの程度でしょうか。
一般家庭での1日当たりの電気使用量は年間平均で15kWhです。
したがって、年間の電気使用量は15×365=5475kWhとなります。電気代を東京電力の料金22.39円/kWhで計算すると、年間の電気代は約12万2500円となります。
さきほど計算した発電量と比較すると、この例では年間約450kWhの余りが生まれ、これを電力会社に売ることができます。
出力が5kW未満の発電システムでの売電価格は、1kWhあたり37円であるため、年間に37×450=16650円の売電収入を得ることができます。
つまり、年間でかかるはずだった電気代、約12万2500円と売電収入約1万7000円を合わせ、年間で約14万円の経済的価値を標準的な太陽光発電システムで生み出すことができます。
一方で、太陽光発電システムには設置するのにコストがかかります。
太陽光発電の急速な市場拡大により、導入コストは年々下がっていますが、現在のコストは40万円/kW程度。
上での計算に用いた通り、一般家庭用の太陽電池モジュールの出力は平均で5kWですから、この太陽光発電システムの導入コストは、おおよそ40万円/kW×5kW=200万円ということになります。
ちなみにランニングコストはほぼかからず、年間数千円程度です。
太陽光発電システムの耐用年数は約20年と言われています。
この20年で太陽光発電システムが生み出す経済的価値が14万円/年×20年=280万円、導入コストが約200万円ですから、「20年間でおおよそ80万円の利益を生み出す」ということになります。
太陽光発電システムの導入に向けて
太陽光発電の仕組みや発電量、導入にかかるコストや電力会社への売電収入の概算などについて説明しました。
標準的な計算例では、20年間でおおよそ80万円の利益がでるという概算になりましたが、実際の発電量や導入コストは地域や環境、設置可能な面積、家庭での電気使用量などによって変わってきます。
事前にしっかりと自身の状況に合わせてシミュレーションを行った上で、利益率を最大化できるような規模やメーカー、あるいはそもそも導入するかしないかを決定する必要があります。
・年間発電量は平均でおおよそ6000kWh程度
・家庭での年間使用電力量はおおよそ5500kWh程度
・平均的な例では20年で80万円程度の利益
・発電量や売電収入による利益率は環境は状況などによって変わる